奥義 霧しな流 そばの道
奥義 霧しな流 そばの道


第二章◆水遁の術 盛り方編
霧しな流 そばの洗い方、盛り方

●冷たい場合

 それでは、霧しなそばの正統派盛り方についてご説明いたしましょう。しかし延々と「そば屋さんの洗い方、盛り方」についてお話いたしましたので、冷たくしてお召しあがる時には基本的にはできる限り条件をこれに近付けるようにしていただけたらと存じます。ただし、当然いろいろ制約もございますのでそこは工夫のしどころ。道具は違えども要はその心意気、ちょっと『にわかそば屋』を気取って手際も鮮やかに「もりそば一丁」っていうのはいかがですか。
 さてまず用意しなければならないのはすくうザル。そば屋さんでの「あげざる」に相当するものです。一番良いのは鍋のサイズにぴったりあって、一度にすべてのそばがすくえるものですがここはひとつ我慢して、柄がついた小ぶりのザルを準備しましょう。ここで絶対して欲しくないことは「茹で湯をすててしまうこと」せっかくのそば湯が台無しになってしまいます。だから鍋からそばをすくう発想でいきましょう。
 そしてこのそばをもっと深めの大きなザルに移して「面水」をかけて荒熱をとります。これはどんな家庭でも心掛けひとつでできるもの、茹で上げ直後はそばがとても切れやすくなっているので、まずはきれいな冷たい水でしめてしっかりさせましょう。そしてそばを移した大きめのザルがすっぽり入るボールか桶に氷水を張り、このザルを浸してそばを洗います。このときも決してゴシゴシ洗うのではなく、両手で揉むようにやさしくぬめりをとっていきます。ここで氷水を用意しておくことが最大のポイントです。そして最後に「化粧水」をかけてきれいにしてからいよいよチョボにとっていきます。動作は、素早くしかもそばにはやさしく、やさしく。
 これには「ためざる」に変わる平べったいザルが必要になります。左手にこのザルを持ち、化粧水をかけたそばを深めのザルから右手で少しずつつまんでは左手のザルの縁に円を描くようにおいていきます。この時には一度にたくさんのそばをつままないように、あくまでもチョボですからポソッと盛っていきます。ベチャベチャのそばの水を切るのがこの作業の目的ですから、チョボにとったそばが軽く水が切れて表面がツヤツヤ光っているような状態が望ましいところです。
 いよいよ最後の盛り付けの段階です。ご家庭にきちんとした塗りの「せいろ」があれば申し分ないのですが、なかなかそうはいかないもの。とりあえず盛り付け用のザル(友の会に毎回ついてくるザルはいかがですか?)を用意して、これに先程とったチョボをザルの大きさに応じておいていきます。普通は三つ山か四つ山が適当でしょう。これをまた手で軽く持ち上げてならし、平らにしていきます。口伝のように「蠅が通れるように」盛れたら大成功。あとは素早く食べるだけです。さあ、家族に自慢しながら召し上がれ。

※用意していただくもの※
大きめの鍋(最低2リットルはいるもの)
・鍋からそばをすくうザル(鍋から一度にそばがすくえるものが最高)
・そばを洗う深めのザル
・氷水を張ったボールか桶
・チョボにとっていくための平らなザル
・盛り付け用のせいろ、またはザル
・「おいしいそばをたべるぞ!」という心意気
※温かいおそばを召し上がるとき
深めの小さなザル
・そばを茹でるのとは別のお湯

●温かいおそばにして召し上がる場合

 そばは盛りそばに限るといった御仁にも寒くなってきたら、やっぱり温かい鴨南蛮そばなんていうのもまた捨て難いもの。そこで、霧しなそばを温かくしてお召しあがる場合のそばの仕上げの方法をご紹介。
 といってもそれほど肩肘はるほどのことではありません。盛りそばの要領でチョボに取るところまでは同じで、あとはこれを深めの小さなザルに(そば屋さんではこれを「ふりざる」と呼んでいます。)一人前の三山か、四山を入れて熱湯の中をさっとくぐらせて丼にもればよいのです。ここまでやるのはちょっと面倒だなぁという方は、チョボにとるのを省略して水を一旦ザッと切ってから小さなザルに一人前をとってお湯をくぐらせればよいと思います。あるいは、チョボにとったそばの上から熱湯をかけるのもよいかと思います。いずれにしましても、そばを茹でる為のお湯とは別にお湯をもうひとつの鍋で湧かしておくことが必要なのでお忘れなく。



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