奥義 霧しな流 そばの道
奥義 霧しな流 そばの道


第3章◆背筋を正して 食べ方編
霧しな流そばのおいしい召し上がり方

 そばにはさまざまな方のそれぞれの食べ方が存在して、それはそれで結構なことだと思いますが、霧しなとしてもそばの食べ方にはいくつかこだわりを持っていますのでまずはご紹介いたしましょう。

  1. せいろに盛りたてをすぐにいただく。
  2. まずはそばだけ、つゆだけを味わってみる。
  3. 背筋をまっすぐに伸ばし、そば猪口を持っていただく。
  4. 薬味は最初から入れるのではなく、アクセントとして途中から。
  5. つゆにはべったりつけずに、三分の一くらいつけたら一気に音をたててすすり込む。
  6. のろのろと食べずに、素早くいただく。
  7. 最後はそば湯を薬味とともにじっくりと味わい余韻を楽しむ。

 …とこんな所ですが、若干の補足説明をさせてください。まず、1.ですが、これには異論もあって、もうすこし時間をおいてもっと水が切れた瞬間がよいという意見もあるのですが、私共はしっかりチョボにとって水切りを施したそばはその時点で完成でありその瞬間を逃す手はないと考えます。だから、せいろに盛るまでに食べる為のその他の準備は全て終えておいて、盛り終えたら即「いただきます。」これが正解だと思うのですがいかがでしょう。
 次の2.ですが、本来そばはつゆと一体となって食すものですから、これはその意味では邪道といえるでしょう。でも最初の一口はそのそばに愛情を込めて、そして確認の儀式のような気分でそばだけをちょっととって口に運びます。「うん、いつもの味だ。」とか「今回は特にそばの香りがいいなぁ。」などなど、そばは生きていますからその都度違った印象を持たれるのではないかと思います。つゆについては毎回確認する必要はないようにも思いますが、そこは気分をだして口に含んでみるのも良いかもしれませんね。
 3.本当に気分の問題。でもそばていうのは『粋』とか『通』とかの言葉があることが示すようにただお腹を満たす食べ物ではないってことは間違いないでしょう。そんなそばを食べるのですから、礼儀の一つも備わってくるというもの。またこれまでの、手間と心配りに敬意を込めれば自然と背筋だってシャンとしそうなものです。また他人からみたって「格好いい」といわれるのが、文化の香り高い「そばっ食い」の姿なんていったら大げさですかね。でもやっぱりそば猪口をおいたままズルズルは、みっともないと思いますが…。
 さて5.ですが、これも粋に食べたいのでこんな風にしたいところ『霧しな郷そば友の会』のつゆはまだ甘めに出来ているのですが、それでもべったりつけ込んだら折角のそばが窒息してしまいそうです。だから、ザルからほんの少しつまみ上げてそばの先っぽをつゆに三分の一、ちょっとつけたら一気に音をたててすすりあげます。この音がまた、たまらないですよね。なんだか、「あぁ俺はそばを食っているんだなぁ。」って実感が湧いてくるようで、おそば屋さんに行ったって、ちょっと気がつくと皆が競争で音をたててそばをすすっていた、なんて経験ありますよね。いずれにしてもこれはスパゲッティじゃなくて江戸文化の由緒正しきそばなのですから、思い切って音をたててすすりましょう。
 そして6.これは友の会の皆様にとっては常識でしょう。ここまで手をかけたそばを、のんびりとテレビなんか見ながら誰が食べられましょうか。絶え間なくそばをすする音の合間、合間に、「そういえば、あの時あの場所で食べたあのそばはおいしかったね。」とか「今回は新そばだからやっぱり香りが違うよね。」といった感じの会話がそれこそ小チョボに飛び交っている - そんな情景を思い浮かべるのが私共の喜びでもあります。
 最後の7.ですが、これも当然と言えば当然、友の会の皆様だったらいつものこととお察しいたします。一心不乱にそばをかっこんだ後、しばしその余韻にひたる時、それはそば湯を楽しむ時ですよね。そば湯は少々時間が過ぎたって、味は変わりませんから残ったワサビ、ネギを落としてお好みの味に仕上げてからゆっくりと楽しめばこれでそばの宴もようなく終わりというものです。そば湯には栄養もあるから飲んだ方がいい、という説も最近では多くなりましたがやはりそばつゆの味(特にだしの関係)を確認しながら、その余韻を楽しむというのが本来のあり方ではないでしょうか。そんな意味でも、是非そば湯をもってまとめとしていただきたいと切に願っております。
 霧しなとしてのそばの食べ方に関するこだわりを延々と書かせてもらいましたが、要はそばに愛情をもってそして文化の香りを大切にしながらいただく、これに尽きると思います。それぞれの食べ方があって然り、それぞれのこだわりがあって然りです。皆様のそれぞれの食べ方を楽しんでいただけたらと思います。

◇薬味について
 さて、そばの三大薬味をご存知ですか?これが現代の感覚とはかなり違うのがおもしろいのですが、刻みネギ、七味唐辛子、大根オロシなのです。今だったらさしずめワサビがはいってくると思うのですが、昔は七味唐辛子の方が一般的だったようです。というのも、ワサビが高価だったからというのがどうやら真相のようですが。また大根オロシですが、辛味大根のおろし汁でそばを食べるのが江戸時代では普通だったのです。明治以降もそば屋さんでは、必ず大根オロシはついてきたものですが、今ではやや珍しい薬味になってしまったのはなにやら寂しい気もします。今でも福井の越前そばなどをいただくと本当に大根オロシとよくマッチしていて、なるほど大根は確かにそばにぴったりの薬味だなぁと思うのですが。
 またもりそばに関する限り、薬味の存在はあくまでも脇役、そばの引き立て役ですからそばの風味を最も引き出し、それをもっと豊かに味あわせてくれるものが最適なのでしょう。そういった点から言うと海苔はどうなのでしょうか。どうもそばの本来の香りをわからなくしてしまうような気がするのですが。現在のざるそばはあくまで発祥はもりそばの種物ですから、そばそのものを味わうといった観点からすればやはり邪道ということになると思うのですが。

●温かいおそばとしてお召し上がる場合

 問題となってくるのは、つゆの調合です。何度か、開田村頼りにもご案内させていただきましたが、基本的な薄め方は以下の通りです。実際にお試しいただいて、ダシが薄い、或いは甘すぎるという方はすみませんがご自分で調節いただけたらと思います。

霧しなつゆ
 + 
湯200cc
(だし汁なら尚結構)
 + 
醤油5cc
(小さじ1)

  温かくしていただく場合、魅力はその豊富な具の取り合わせです。春夏秋冬のそれぞれの旬の味を織り込んだ、情緒あふれるおそばをいただくなんていうのも本当に素敵ですよね。またその地方独特の具なんていうのもあって、これもまたいいものです。それでは幾つか代表的な旬の種物をご紹介いたしましょう。

◆あられそば…アオヤギの貝柱を、ひとつずつ手作業で掃除して選り分けて熱い汁をかけたそばの上にこれをのせるのです。この貝柱がまだ生のうちに食べるのが何ともいえずおいしいものです。これは十一月から三月までの冬季限定品
◆穴子そば…今では一年中食べられるこの品がきですが本来は初夏から夏にかけての季節商品。活き〆の穴子をいったん地焼きして、返しを塗って2度程あぶります。香ばしく焼き上げられ、返しだけの甘みに抑えられているので汁とのバランスを崩さないのが本物の穴子そばといえるのだそうです。
◆時雨そば…これは6〜7月の品がきです。アサリのむき身を酒、白だし、醤油、ショウガをいれた汁で約2時間炊き、海苔とともにこれをそばの上に散らすのです。そばとアサリの取り合わせなんていうのがいかにも江戸情緒がありますよね。
◆かきそば…冬を代表する味覚のひとつ、カキを油でいためて軽く焦がし、熱いそばの上にのせたオツな一品です。カキはいためれば身から汁がでたりせず、汁を濁らすこともなく、また汁との相性も非常によいのでこれも冬には書かせない品書きです。


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