奥義 霧しな流 そばの道
奥義 霧しな流 そばの道


第4章◆もう一歩本格的に自分でそばつゆをあつらえる
そばつゆの仕組み

 おそば屋さんのそばつゆの作り方、ご存知ですか?それはもちろん各店によって秘伝はあるのですが、基本はいっしょ、実は本当にシンプルなものなのです。要するに味の根幹をなす『返し』と風味の根幹をなす『だし汁』をいろいろな割合で混合することによってつゆはできあがるのです。
 それではまず『返し』ですがこれもまた非常にシンプルな組み合わせで基本的には、醤油、みりん、砂糖からできています。元となる醤油への砂糖の溶かし方によって、加熱して溶かす「本返し」と、加熱せずにじっくりと時間をかけて色濃く仕上げる「生返し」があります。結局簡単にいってしまえば、一番の元となる醤油に甘みやまろやかさを加えるために砂糖、みりんを溶かしたものが『返し』なのです。「それだったら、家庭でもできるんじゃないか?」と思う方もいらっしゃると思いますが、その通り。後で基本的なパターンをご紹介しましょう。
 次に風味の根幹をなす『だし汁』ですが、一般的には鰹節のだしが基本になっているようです。現在では鯖節、宗田節などの他の節を干しいたけ、昆布といっしただしの素を使う店も多いようです。まただしの取り方も店それぞれで違いがあって、節を厚めに削りじっくりと45分から1時間もかけて煮出す店もあれば、薄く削ってほんの5分位でさっとだしをひく店もあるようです。
 それにしても不思議なのは日本全国、そばのつゆたるや基本は醤油と砂糖と鰹のだしという組み合わせが変わらないということ。関東と関西では使う醤油が濃口醤油か、薄口醤油かの違いはあるものの、うどんのように味噌煮込みだの、おっきりこみだのといった味が一般的にならないのがそばの世界。やはりあの蕎麦の淡白でそれでいて奥の深い味わいに唯一無二ぴったりくるのがこのつゆの基本形といえるのでしょう。ついでに言うと、このそばつゆの構成は江戸料理の基本でもあるのです。というのも濃口醤油が一般的に普及したのも、またみりんや砂糖、更に燻乾法という今日の鰹節が活発に消費されたのも、この江戸時代であるからです。そば自体もこの時代に普及しましたからこの文化の影響を濃く受けたとも考えられるようです。そばつゆは江戸料理の基本、いや日本料理の基本なんてそば通にとってはなんとも我が意を得たり、といった心境ではないでしょうか。

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