父こいし 母こいし

 せんだばしとてがねとのさかいに とうげがあって、そのへんを、昔から 小石づかとよんどる。
 ずっと昔、なんでも日本人どうしで、毎日戦争ばっかやっとった時分の話じゃと。
 あるところでな。おとうがいくさにつれられていったまんま、いつまでたっても、かえってきよらんもんで、おかあはしんぱいでしんぱいでしやらへん。
 そやもんで、むすめを一人つれて、おとうをさがしながら たびに出かけたと。遠いとこから来たもんじゃで、おかあはもうへとへとにくたぶれちまっとって、むすめも足にけがしとったげな。
 ほいで、ここまで来て、村のしゅうにきいてみるちゅうと、どうも、その人は ここのとうげのへんのたたかいで、死んだらしいというもんで、びっくりこいて、そのまんま おかあも死んじまったと。
 おとうも死んで、おかあも死んで、むすめはひとうりぎしになっちまって、もう 行くとこもありゃへん。
 どえらいかなしがって、
 父こいし 母こいし。
 そういって泣きながら、毎日毎日 おかあのおはかのへんに、小さい石をひろってきちゃあ、つんどったと。
 そいで、そこにいくつかの小石のつかができたのやと。
 村のしゅうは、しぜんと このへんを小石づかとよぶようになったげな。

文・丸山  才一
絵・大橋 寿美代

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