千駄がえし
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昔 この村にな、せんだの山っていって、毎日千駄ずつ(馬千頭分)のたきもんがきり出せる、広い山があったと。
そやもんで、この村のしゅうは、どこのうちでも たいてい馬をかっとってな、百しょう仕事のひまなときにゃあ、みんな馬をひっぱって、せんだの山へ出かけていって、そのたきもんを馬のせ中にのして、まちまで売りにゃあいったと。
ところがや、そうやって 毎日ぜにが(お金)とれるもんで、みんなばくちがすきになっちまって、仕事がすむと、なんやかんやと ばくちばっかやっとったそうや。
そいつをみとった かまたきのおやじがあきれて、
「おんしら、まあ よう毎日えげずに、ばくちばっかやとるなあ。そんな五文、十文のしみたれたばくちばっかやっとらずと、たまにゃあ どでかいことをやってみたらどうや。」
て、笑ったと。
「どうじゃ、いっぺん おれと、このまきのわりやっこを、してみんか。先にわりぞこなったほうが負けちゅうことで、おんしらが勝ったら、このかまやきばおを みんなおんしらにやるわ。そのかわり おれが勝ったら、せんだの山を全部おれによこすちゅうのは、どうじゃ。」
そういったもんで、馬ひんきたあ びっくりこいて、みんなだまりこんじまったと。そりゃそうじゃ。せんだの山っていやあ、村のしゅう全部の山や。いくらなんでも、ばくちにかけるわけにゃいかん。馬ひきんたあも、はじめのうちは 頭を横にふっとったが、
「勝ちゃええやないか。それとも、おんしらそんだけぎょう山おっても、ひとうりも、おれによう勝たんちゅうのか。そうやさな、おんしらみたいなどんびゃくしょうの馬ひきじゃ、たばになっても、おれさまに勝てんじゃろう。」
てって、あんまりいばるもんで、しまいにゃ ごがわいてきて、
「よし、こいっ。」
てって、いよいよ まきのわりやっこがはじまったと。
そやけどな、相手は、毎日毎日 まきわりばっかしとるおやじや、勝てるどうりがない。何人かかってもかなわん。とうとう しまいにゃ、みんな負けちまって、せんだの山をとられることになって、馬ひきんたあ 困っちまって、みんなにげてっちまったと。
そりゃそうじゃ。そんなことが 村のしゅうに知れたら、えらいこっちゃ。とても、この村にゃおられんようになるもんな。
馬ひきのよめごが、その話きいて まっ青になっておこったと。
「とろくさい、おうぜいかかって、なんちゅうだらしないこっちゃ。ようし、おらがとりかえしてきたる。」
ちゅうわけで、はだしのまんま とびだいていったと。
とちゅうで、おびがほどけて、たいもないかっこうになっちまったけども、そんなことかまっちゃおれん。
おやじのかたきとりにきたっちゅうわけで、むちゃくちゃ まきをわりだいたもんやで、かまやのおやじが でてきよって、ひょいとみると、着物もなんにもはだけちまって、そのへんみんなまるみえや。もう、おかしょておかしょてしゃらへん。
ほいでもな、はじめのうちは、まじめくさい顔して こらえとったが、どうにもしんぼうできんようになって、
ブフフフウ
と、ふきだいちまったと。で そのひょうしに、まきの木が、
ガターン
ころがったとこを、
ポカーン
おやじは、自分のむこうずね いやっちゅうほど、まきわりでぶんなぐったもんで、
グヘヘヘエ
どろの中から、いきなり えんてんぼしに、ほうかりだされたどじょうまみたいに、あしをかかえてころがりまわったと。
そうやって、よめごのおかげで、みごと せんだの山をとりかやいたもんやで、そいからは 千駄がえし村とよばれるようになったのやと。
これは、こども時分 いろりばたでな、ばあばあのかたたたきながら、きいた話じゃ。
文・丸山 才一
絵・加藤 公雄