「木の芽田楽」

03dengaku.gif

「 木の芽田楽 」
 昔、浪花の国に田楽法師と云う芸人が居て、一本の棒に縋って飛び跳ねて見せたその姿に、串刺しにされた豆腐や、こんにゃくの様子が似ていたのでこの名が付いたと云う。
 梅、桜、つつじと花見の季節が来ると、庭の山椒も亦可憐な芽を付け始める。さあ、木の芽田楽の出番到来である。
 まだ、わずかに残雪のある恵那山に向かい、爛漫の花の下の赤毛氈に座して、と云う状況設定での木の芽田楽は、また一層風趣がある。やっぱりお座敷よりも自然の中で食べるのがよく似合う料理である。
 木の芽田楽には菜飯がつきものである。田楽の少し甘い味噌の味が、塩気のある菜飯に中和されて、口中を納めるのであろう。又、真白い飯に散った菜の青さが、いかにも目に初々しい春の色を告げる効果もあるのであろう。

  • 山荘の雨 田楽の冷えぬまに     中村素山