「 鯉 」

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「 鯉 」
 郷土が生んだ前田青邨画伯は、しばしば鯉をモチーフにされている。或いは、子供の頃のふるさとの美しい川に泳ぐ鯉が、イメージにあったのかもしれない。また馬籠の部落は急坂の街道で家並みに添って段々に小川が流れており、必ずどの家でも前庭に池を作り鯉を飼っていた。山里にとって鯉は大切な、客をもてなすための貴重な材料であったと思われる。
 鑑賞用に食用にと、私達の生活の中に鯉はいろいろとかかわり合いをもっている。
 赤色鯉を食べると産婦の乳の出が良いとか、鯉の塩焼きが料理としてあまり出ないのは、武士が切腹するときの最後の食膳にこれが出されたからだとか云い伝えとは面白いものである。鯉は捨てるところがない。ウロコは空揚げにしてセンベイ、皮は酢のもの、身は刺身や煮物に、骨や頭は味噌汁に煎れて鯉こくにと利用度は100%である。全部食べきるのが鯉に対するせめてもの礼儀であろう。