「付知川の鮎」

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「 付知川の鮎 」
 ”鮎”は郷土愛の”愛”に通じる。どこへ行っても我が故郷の鮎が一番と自慢する。
 鮎の姿と味とその独特の香りは水の清澄度に比例すると云う。しかし昨今、この辺りで工場や家庭排水のあまり流入しないのは、もう付知川か馬瀬川位であろう。一名緑川と名付けられたその付知川での鮎の友釣りは、釣り人にとってはまさに桃源郷に遊ぶ醍醐味である。 友釣りは鮎と鮎との闘いであり、更にその本性を利用した人間と鮎との熾烈な闘い絵巻である。漁と云うよりも、もう芸術の境地でもある。
 釣り人は青竹筒に二杯酢を入れ、河原の日向に温めておき、一番に釣り上げた鮎をその中に入れる。
 昼食頃になると全身に酢が廻り、丁度食べ頃になる。そこで又、河原石を組んだ炉で焼いた竹串の鮎を頬張る。高級料亭では味わえない一刻(イットキ)である。
 舞台は風光絶佳の付知川、主役は銀鱗踊る鮎二匹、演出するのは真夏の太陽、人は唯その中に身をまかせて感動するのみである。
 持ち帰った鮎は、熊笹に包んだ、「姿すし」にして明日の楽しみにしよう。

  • 鮎宿に 持ちこまれたる 地酒かな     皆川盤水