「夏八寸...青梅とじゅん菜」

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「 夏八寸...青梅とじゅん菜 」
 庭や畑に梅を植え、春は花を賞で、夏は実を料理する二重の楽しみは、田舎に住む者の特権である。先んづ、青梅を大きめの粒で揃え、一粒ずつ木綿針で表面に無数の穴を刺す。極く弱火でゆっくりボイルし、流し水で一日二日晒してから密で仕上げる。この丁重な扱いと根気がやがて一粒の梅の実を、ヒスイの様な料理作品に変身させてゆく。
 この地方にも以前は山の古沼にゆくと、自然のじゅん菜が人知れず生えていたものである。そのなにげなさが奥ゆかしくて、子供心に”じゅん菜”と云う名を覚えた。今では開発と共に姿を消し、秋田県などの栽培地の他は瓶入り、袋入りとなった商品としてしか、お目にかかれなくなってしまった。淋しいことである。
 あの裏山の古沼に生えていたのをイメージして食べることの出来るものだけが、本当の。ジュン菜を味わえる人であるかもしれない 。
暑気払いに梅酒を添えて夏の八寸とした。

  • 青梅の 臀うつくしく そろいけり    室生犀星