「 自然薯 」
自然薯の料理の楽しみは、まず収穫する事から始まる。アクの少ない、しかも栄養を十分蓄えた冬期に掘るのが望ましいが、その場合は、まだ蔓のある内にその根元に少量の麦を播いておく。そして冬枯れの山中で青い麦の芽を目当てに薯を探す。面白い知恵である。
自然薯は、一見ごつごつしていかにも頑強そうに見えるが、実は極めて折れ易い。時には一メートル近くもある薯を、固い砂礫質の山土の中から、しかも足場の悪い所で先端まで折らないで掘るのは並大抵の苦労では無い。
しかし薯掘り達は、なぜか例えそれが自家用であっても一心不乱に掘り上げる。その懸命に没頭する姿は収穫行為と云うよりも、何か男のロマンを感じてしまう。
こうして自然薯料理は「掘る事」からもう調理が始まったと云える。
狐ききおり 自然薯掘りの ひとり言 森 澄雄