「五平餅」

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「 五平餅 」
 五平餅とは、木片に飯を練り付け、みそを塗った木曽の杣人の弁当が、御幣に似ている所からこの名が付いたと云う。諸説ある中で、これが一番尤もらしい。従って、板五平が原形で、団子状に串刺しにしたのは後に都会風に変型したのであろう。里に降りた五平餅は収穫の祝料理となった。一年の苦労や喜びを、汗の結晶である貴重な新米を食べる事に依って、精一杯表現したのが五平餅であり、農民のささやかな贅沢であった。やがてエスカレートして、そのタレ作りに色々と工夫を凝らし始める。醤油・砂糖・みりん・胡麻・落花生をベースにして、その上秘伝は思わぬものを勘考する。玉子・へぼ・小鳥・シーチキン・中にはカミキリ虫の幼虫を入れる家さえある。
 微妙で複雑な我が家だけの自慢のタレである。五平餅を焼く煙りは、食前酒効果の様に一層食欲を刺激する。「五平五合」と云われる様に思わず食べ過ぎてしまうから気をつけよう。五平餅には、渋い番茶と漬物があればよい。

  • 夏の炉に 焙りし 五平餅とかや      高野 素十