「雉」

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「 雉 」
 雉は古くから人とのかかわりあいが深く、伝説や文学、絵画等にも多く現れている。喧騒の現代に於いても、雉はやっぱり人里近くに棲むと云う。廃村になると雉がいなくなると猟師が云い、又山頂から放鳥すると、一直線に人里に向かって飛ぶと愛鳥家は云う。それは耕作畑に餌を求める生活の知恵か、それとも人恋しさの愛の性か。恐らくその両者、「知」と「情」であろう。そんな所が雉と人との関係を作っていったと思われる。美しい姿態、じっと心の奥底まで見通す様な、つぶらな瞳を見ていると、雉は前世では麗しの女性の化身ではなかったかとさえ偲ばれる。
 あれこれ思えば箸をつけるのに一瞬ためらいを感じるが、しおらしく合掌した後、ままよと鍋の蓋を取れば、こうしたこもごもの感慨も湯気に消えてしまう程、冬の雉は美味である。

  • 父母の しきりに恋し 雉の声       芭蕉