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素朴な中津川伝統の菓子
おいしい菓子には訳がある


旅人を癒し、趣味人が開花させた和菓子

 京都、金沢に並ぶ和菓子処として知られる中津川。特に、栗きんとんに代表される栗菓子処として有名です。中津川の和菓子の歴史は、中山道の宿場だった江戸時代にさかのぼります。当時は東濃屈指の商業都市。街道沿いにはさまざまな商店が軒を並べていました。中でも、旅人の疲れを癒す甘いお菓子は人気を集めていたようです。江戸後期、豪商たちの間で「茶の湯」が盛んになり、それとともに和菓子が発展。江戸末期、公武合体の名の下に第十四代将軍家茂へ嫁いだ皇女和宮のお輿入れの時、まだ若干十四歳の姫の嫁ぐ不安を慰めたのが、京のお菓子だったといわれています。その和菓子を中津川菓子組合が再現しました。菓子処のプライドと昔ながらの手法を守りながら、今の時代に受け入れられる新製品も次々と生み出しています。


小さなお菓子に心を込める

中津川の生菓子

 中津川が3大菓子処に名を連ねるためには、さまざまな要素が必要でした。まずは歴史。古代より交通の要衝として栄えた中津川は、東西文化が流れ込んで来る場所でした。次に文化。江戸時代、東濃随一と言われた豪商達がつくり出した文化は、和菓子を発展させる牽引力になりました。そして素材。和菓子作りに適した、良質な栗の産地であることは、今でも大きな要因です。最後に人。師の教えを受け継ぎ、守り、花開かせる継承者達は、誇りを持って菓子作りをしています。


小さなお菓子だから、
技も心も磨いています。

 「中津川は栗菓子が有名ですし、栗菓子をお求めになるお客様が多いです。でも、生菓子でなければいけない時もあります。生菓子は人生の節目、生活の節目に花を添えるお菓子ですから」と、菓子職人の志津さんは語ります。誕生、お節句、入学や成人式、結婚...さまざまな場面で季節を表した和菓子が出されると、その場がぱっと華やぎます。「日本人は四季と切っても切り離せない生活をしてきました。生活の中に密着している季節感を、生菓子に表現するよう心がけています」
 中津川を代表する、老舗和菓子店で約三十年、和菓子職人としてお菓子を作り続けている志津さん。「生菓子は上品さが命です。山に囲まれた中津川は素朴な土地柄なので、生菓子も素朴に上品に。その辺りが京都の菓子とは違うところですね」色も自然で優しい感じに。「買う方の気持ちに添うようにしています」
 「心を込めた菓子を作るには見た目ではなく内面が大切。内面が磨かれると菓子が変わってくるんです」そして食べる時にいろいろな想像ができるよう、「含み」をもたせて作るのだそうです。小さなお菓子に込められる、小さなストーリー。志津さんの手の中のかわいらしい水仙の花が、みるみる春の喜びを表します。

正月菓子

 和菓子処、中津川のお菓子の中で、特に職人技が光る「正月菓子」。新年を祝い、春を喜ぶ正月菓子は、縁起の良い「松竹梅」や「鶴亀」をはじめ、春を連想させる草花をかたどったものや、干支のお菓子、そして伝統的な「花びら餅」などが作られます。ほのぼのとした温かさと繊細な美しさ、そしてはなやぎに満ちたお菓子の数々には、受け継がれた技とともに磨かれてきたセンスも感じられます。

自然の恵みと人のぬくもり。
栗の産地の栗のお菓子。


栗菓子

 江戸後期頃から、中津川で茶の湯が盛んになりはじめます。おいしいお茶に合うおいしいお菓子をと、菓子職人達が腕を競いあいました。中津川は岐阜県内有数の栗の産地。和菓子作りに最適な、甘くてほくほくとした栗は、「逸品の菓子」になり、菓子職人達の創作意欲を高めます。伝統的な栗きんとん、栗きんつば、栗羊羹はもちろんのこと、栗の味を活かした新たな栗菓子が生み出されています。

干し柿と栗きんとん
秋の山の恵みがつくり出した中津川銘菓。

秋が深まってくると、中津川の菓子店の多くでは、栗きんとん餡を干し柿で包んだお菓子を作ります。透き通るようなオレンジ色、ころんとかわいらしい形の中津川銘菓のひとつです。「柿の実きんとん」「杣の木漏れ日」「幸福柿」「久利柿」など、お店によってオリジナリティーにあふれる名前がつけられています。秋の恵み「栗」と「柿」がつくり出す味です。

新しい伝統だからこそ
伝えていくことが大切。


お客様の期待に応える、
和菓子処の菓子職人。

 二年に一度開催される「中津川菓子祭り」で、ひときわお客様の目を引きつける展示があります。それは菓子の材料を使って花や鳥などを作り上げる工芸菓子。菓子祭りが開催される年は、開催の半年以上前から市内の各店の職人が集まり、作品を作りながら技術指導を受けています。中津川工芸菓子会館では、今までに作られた工芸菓子作品を常設展示。中津川での工芸菓子の歴史はまだ浅いのですが、どの作品にも繊細な和菓子作りで培った職人技を見ることができます。

これは本当にお菓子なの?

 「菓子祭りが近づくと、『今年は何をつくるの?』と聞かれます。それが作品作りの原動力です」と語るのは、「七福」の安藤隆生さん。中津川工芸菓子の若き指導者です。「先代に教えていただいた技術を、後輩に教えるだけ」と話しながら、平らの花びらに手を加えると、次第にボタンの花びらに。まるで花びらに命を吹き込まれたかのよう。受け継いだ技術を継承していくことは、新しい技術を生み出すことと同じくらい大変なこと。「全国レベルの工芸菓子が作れるよう、みんなでがんばっていきます」菓子処の職人としてのプライドを感じます。


朴葉もち・からすみ
お節句のお菓子が今は中津川の名物に。

今では有名和菓子店や専門店で作られている「からすみ」「ほうばもち」ですが、もともとは各家庭で作られていた、お母さんの手作りお菓子でした。からすみは桃の節句、ほうばもちは端午の節句に、子ども達の健やかな健康幸せを願って供えられました。富士の形をかたどったからすみは、黒砂糖やよもぎ、桜、クルミ、栗など味のバリエーションが広く、オリジナルの味のからすみを作っている店もあります。朴の葉は、1本の枝先に数枚の葉をつける特徴があります。その特徴を生かしてお餅を包む店もあれば、葉を一枚一枚ていねいに切り取ってお餅を包む店もあります。

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発行:岐阜県中津川市